月のあかり
15
一ヵ月が経ち、秋の気配が朝夕の風に滲んで、ぼくの部屋の日焼けしたカーテンの裾を、しなやかに揺らしていた。
上半身に纏わり付き、神経に鈍痛を走らせていた帯状疱疹は、秋風の到来とともに鎮静化していた。
「嶋さんですか?」
不意にバイブレーションを発動させた携帯電話の向こうから、大人びた女性の声がした。
それは聞き覚えのある声であり、聞き覚えのあるセリフだった。
ぼくは2日前に会社を退職していた。
ひと月前から担当だった営業先にも挨拶回りを済ませていたから、携帯電話が鳴ることはここ数日なかった。
声の主は長澤ユカだった。
「どうしてぼくの番号を?」