月のあかり
ぼくの問い掛けに、彼女はしばらく沈黙していた。
やがて申し訳なさそうな声で、稽古中に満央のカバンから携帯電話を取出し、こっそり覗き見て調べたことを告白した。
なぜそんなことをしたのかと訊くと、急に強い口調に変わってこう言った。
「どうして満央ちゃんと別れたんですか!?」
長澤さんの声は、狼狽と憤慨の入り混じったような声だった。
《別れ》という言葉が妙にむず痒く感じた。
確かに二人の関係の凍結という名目には、明確な期限を設けておらず、無期限の凍結という意味合いは、永遠の別れという解釈にも限りなく酷似している。
しかし、ぼくはなぜそのことを長澤さんに追求されるのか分からなかった。
「彼女、このところずっとふさぎ込んでいます。稽古にも身が入っていないし、何だか生きる気力さえ失っていそう」
満央ちゃんを支えてあげれるのは嶋さんしかいない。
そう続けた長澤さんの言葉に胸が痛くなる思いだった。
満央の顔が目に浮かぶ。
それでもいまのぼくにはどうすることも出来ない。
そんな軟弱な自分に気付いたからこそ選んだ《別れ》だったのだから。
「でも、私の心配していることはそれだけじゃないんです」
彼女の言い方は、ぼくに得体の知れない嫌な予感を産み落とした。
「それだけじゃないって?」
「舞の時と同じことを繰り返す気がするんです。同じ悲しみを‥‥」
「同じ悲しみって?」