月のあかり
ぼくは急き立てるように聞き返した。
長澤さんは小さく息を吐き、言葉の切り出しに困っているような間を開けてから答えた。
「裕也のことなんですけど、彼、クスリをやっているんです」
「クスリ?」
「ええ」
「それってまさか‥‥‥」
「いえ、麻薬とか覚醒剤とかじゃなくて」
「じゃあ、合法ドラックみたいな?」
「そう、そういうやつです」
長澤さんが言うには、高梨はそれを常用しているらしい。
彼曰く、そうすることによって感情の抑揚や感性の表現能力が飛躍的に高まり、稽古や本番の舞台でも良い演技が出来るのだという。
「でもそれが、同じ悲しみっていうのは?」
ぼくが訊くと、彼女は少し言いづらそうに声を出した。
「夜にはもっと強いクスリを飲むんです」
「夜って?」
「だから‥‥その‥‥女の子と二人でいる時‥‥」
つまりそれは性交渉の時に、より快楽の度合いを高める為であり、そんな彼の性癖の暴露は、実は長澤さん自身が、いまも彼の性的欲求の奴隷になっている告白でもあることが窺えた。