月のあかり
ぼくは頷いた。
「それってデートですか?」
ぼくがもう一度小さく頷くと、あかりの頬がまた少しだけピンクに染まったように見えた。
「今日はありがとうございました。とっても楽しかったです」
喫茶店に入り小一時間が経とうとしていた。
楽しい時間というのは、あっという間に過ぎ去ってしまう。
ボウリングの話で盛り上がったぼくらは、来週の土曜日にデートの約束をした。
それはキャバクラ嬢とお客という関係ではなしに、あくまでも普通のカップルとしてだ。
終電車に乗る為に喫茶店を出て、駅の改札口へと向かった。
ぼくとあかりは別々の路線で、自宅は逆方向だった。
ぼくは別れ際に赤い携帯ストラップを渡した。
あかりは思わぬプレゼントにビックリしたのか、眉を下げた表情で申し訳なさそうに受け取った。
彼女の帰る路線の改札口で見送ると、あかりは何度も振り返り、手を振ってホームへの階段を駆け上がっていった。
そしてホームの柱の陰に姿が見えなくなるまで見送ると、ぼくは慌てて自分の乗る路線の改札口へと急いだ。
終電案内の掲示板の前に立つと、そのまま苦笑いを浮かべる羽目になった。
ぼくの乗るはずの終電車はすでに時間を過ぎ、自宅へ帰る手段がなくなってしまった。
あまりにも楽しかったあかりとのひと時が、終電車の時間を気にすることを忘れさせてしまっていたのだ。
ぼくは仕方なく駅前の歩道に腰を下ろし、始発電車を待つことにした。