月のあかり
 
「時間がないって?」
 
「満央にはもう時間がないの」
 
「どういうこと?」とぼくが訊いた。
 
 舞は無言で首を振り、そのことには何も答えてくれなかった。
 そして一度俯いてから顔を上げ、こう言った。
 
「満央は直樹さんが愛してあげてね」
 
 でもどうやって? と沈んだ声でぼくは尋ねた。
 自信喪失で過ごしてきたこの数か月の日々が、依然としてぼくを雁字がらめに縛り付けていた。
 舞は、まだ分かってないのね、と言わんばかりの困った表情を浮かべた。
 
「満央にとって直樹さんは、太陽であり地球なの」
 
 ぼくは、え? という疑問符を表情で返した。
 
「月のあかりは太陽の反射。直樹さんが照らさなければ満央は輝けない。そして満央が照らさなければ、暗い夜道を彷徨う直樹さんは歩けない。満央も貴方に寄り添って歩けないのよ」
 
 舞の言葉に脳天を打ち砕かれたぼくは、身勝手で小我な愛に明け暮れていた自分が恥ずかしくてたまらなかった。
 それと同時に、優しくビロードに包まれるような救いを感じさせてくれた。
 
 振り返ってタペストリーの満月を見つめながら舞が言った。
 
「裕也さんにも伝えて下さいね」
 
「ああ、分かったよ」
 
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