月のあかり
もしかしたら満央にも会える。
そんな期待と不安もあった。
実際にそこで満央の姿を見掛けたとしたら、声など掛けれず、遠くから見守ることしか出来ないだろう。
しかしスロットコーナーには、高梨や満央の姿は見当たらなかった。
諦めて帰ろうとするぼくの目の前に、休憩コーナーでタバコを吹かし、俯き加減でベンチに腰を下ろす男の姿があった。
ぼくが近付くとその男は徐に顔を上げ、ひどく驚いたように目を丸くした。
頬は老人のようにやつれて痩け、不精髭が伸び散らかっていた。
高梨だった。
僅か二ヵ月余りのうちに彼の身の上に何があったのだろうか。
ぼくは挨拶を交わすことも忘れて、変わり果てた彼に声を掛けた。
「どうしたんだい?」
困憊し、生気を吸い取られたようなその様相に、ぼくは驚きを隠せなかった。
高飛車で高圧的なかつての態度は微塵もない。
そしてそばには満央の姿もなかった。
「全部やられちゃって、すっかんぴんですよ」
彼は強ばった苦笑いを混じらせてそう言った。
聞けば今日の話だけではなく、この一ヵ月以上ずっとスロットに負け続けているらしい。
それどころか借金まで背負い、遊ぶ金が無くなっても生活習慣のようにこの店に足を運び、こうして意味も無く時間を潰しているのだという。
「何しに来たんですか?」
力の抜けたような声で高梨が訊き返してきた。