月のあかり
「わかってないなぁー」
「何がさあ?」
質問の意味がよく理解出来なかったぼくが再び訊き返すと、彼女はこう言った。
「満月じゃなくても、半月でも、それに三日月の時だって見えないところにも『月』はあるんだよ」
見えないところにも月はある‥‥‥
なるほど‥‥と思いながらも、まだぼくがキョトンとしていると、「つまり‥‥」と付け加えて彼女はこう言った。
「見えなくても、見えない光できっと照らしてくれる。見えない存在になっても直樹さんと私を見守ってくれているんだよ」
そんなファンタジックで外連みのない文学的な発想をする彼女が、ぼくはたまらなく好きだった。
そして彼女は花に宿る妖精のように、さり気なく慎ましく、いつもぼくの隣に寄り添うように側にいてくれた。
でも今はもう『彼女』はいない。
ぼくの隣には、一匹のメス猫の『ヒメ』がいてくれるだけだ。
「あかり‥‥」
ぼくは今夜もマンションの屋上の『二人のベンチ』に座り君を想う。
そしてあの夜と同じように月を眺めているんだ。
君の代わりにヒメを膝の上に抱きながら‥‥‥