月のあかり
大きな繁華街のあるこの街の駅前も、終電車がなくなる頃にはさすがに人通りは疎らになる。
幸いにも明日は仕事が休みだけど、駅前で野宿なんかして翌日も会社に出勤だったら、とてもじゃないけど身体がもたない。
睡眠不足に弱いぼくは、すぐに体調を崩してしまうからだ。
それに子供の頃からそういった短い睡眠の時に限って、薄い水色の霧に包まれた不思議な夢を見たりする癖があり、自分ではあまり好きな習慣ではなかった。
ふと夜空を見上げると、月がくっきりと輝いている。
確か満月は3日ほど前だったはずだけど、今夜の月もさほど欠けているようには見えなくて、限りなく満月に近い状態に見えた。
こんなことってあるのだろうか?
3日前のぼくの見間違えだったのだろうか?
冷たい夜風が吹き始め、街の空気に透明感が増すと、月はさらに明るさを強めて、ネオンが消え始めたこの街を包み込んだ。
ぼくはスーツが汚れないように、近くに捨ててあった雑誌を拾って座布団代わりに敷き、その場に座り直した。
そして始発電車が動きだすまでの間、今日も満月に見える不思議な月のあかりに見守られ、しばらく目を瞑ることにした。