月のあかり
「さあ‥‥‥」
高梨は首を傾げる仕草をしてから、ぼくに虚ろな眼差しを向けた。
そして自分に言い聞かせるように、それでいてぼくに送り付けるようにこう言った。
「愛が足りなかったんでしょう」
あまりの唐突な言い放ちに、返す言葉が見つからなかった。
それどころか、まるで心の一端を見事に見透かされた気がした。
ぼくは以前読んだ本の中に、こんな話が載っていたのを思い出した。
ギャンブルにのめり込む人の多くは、心に備蓄しなければならない《愛の電池》が欠乏しているのだという。
《愛の電池》の充電が不十分だと、心に循環する《愛の血液》の働きが凝固して、精神という精密機械の機能に誤作動が発生してしまう。
家庭不和、将来の不安、失業、失恋、大切な人との離別‥‥‥
孤独、虚無感、生き急ぐが故の漠然とした焦燥感。
誰しもが経験し、誰しもが乗り越える人生のハードル。
そして踏み外すと深い大きな落し穴。
躓き、喪失し、また再生する《愛の電池》の育みに何らかの狂いが生じた時、人間は自分の心と行動が制御不能になるだというのだ。
無気力、無関心、無感動‥‥‥ ただ刹那の快楽だけを求め貪る地獄の亡者。
《愛が足りなかったんでしょう》
その言葉は、まさしく目の前の高梨であり、満央であり、きっとぼくのことでもあるのだ。