月のあかり
高梨はタバコを燻らし、また俯いた。
「たぶん満央の心の中には、いつも嶋さんの存在がいましたよ」
そう言って顔を上げ、高梨は悲しげに微笑んだ。
ぼくは無言のまま彼を見つめていた。
「満央は最後までぼくに心を開かなかった。確かに劇団の先輩として尊敬されていたと思う。姉の彼氏だったという事実も、いい意味で親近感があったに違いない。でもそれは彼女にとっての愛ではなかった。そのことは彼女自身も後から気付いたんじゃないかと思う」
高梨の話は、役者を志す青年らしからぬほど訥々としていて、哀れみさえ感じさせた。
「君は満央のことを本当に愛していたのかい?」
沈黙を続けていたぼくが訊いた。
高梨はタバコの火をもみ消すと、しばらく目を閉じてから、か細い声で答えた。
「ずっと‥‥ずっと舞の幻影を追っていました」
純真無垢な少年に回帰したような、屈託の無い表情から発したその一言に、一切の虚偽の香りは感じられなかった。
高梨は暗闇の中に住む少女の姿を捜し続けるように、目を閉じたまま深く息を吸い込んでいた。
舞が死んだ朝、高梨は警察の事情聴取を受けた。
合法ドラッグとはいえ、薬物を服用していた彼は、舞の死因が特定されるまで、限りなく容疑者としての扱いをされたという。
最愛の恋人を亡くしたあげく、容疑者にまでされた彼の心の傷はとてつもなく深いものだったに違いない。