月のあかり
月に関するいくつかの連想をやり取りしたあと、彼はいつもの甲高い声でこう言った。
「見えない部分にも月は存在するってことですよね?」
ぼくはそうだと頷いて見せた。
「それがどういう意味か分かるかい?」
高梨は首を小さく横に振った。
「舞からのメッセージだよ」
「舞からの?」
不思議そうな顔をする高梨にぼくは諭した。
「月のあかりは月を介したもう一つの太陽の光。暗い夜道に彷徨う人々の足元を照らしてくれる燈明なんだよ」
彼は神妙な面持ちで頷いた。
暗い夜道に彷徨う‥‥それは人生においての比喩でもあることは、自ら芝居の台本さえ書く彼なら、容易に解釈が出来たようだった。
「そして見えない部分にこそ、月の発する本当の光がある気がするんだ」
「月の発する本当の光?」
「そう、見えない存在になっても、君のことを見守っている光なんだよ」
見えない存在‥‥もうその答えは分かっていた。
高梨の神妙な面持ちは一気に崩れたが、唇を噛み締めることで、男としてのプライドを辛うじて保とうとしていた。