月のあかり
「それが舞からのメッセージでしたか?」
高梨が訊いた。
「いや、それだけじゃない」とぼくは答えた。
どんなことを告げられるのだろうかと、彼はぼくの次の言葉を不安そうに待っていた。
ぼくはゆっくりとした口調で告げた。
舞の代弁者としての思いを込めて。
「舞は言っていたよ。君のことを愛していたって」
喉を締め付けるような息を漏らし、高梨の表情が崩壊した。
鼻を啜り、留め処もなく流れる涙を上着の袖で拭っていた。
そして絞り出すような声で彼女の名前を呼んだ。
「‥‥舞」
彼は満央と付き合うことで、満央の中に舞を転化させていた。
言い換えれば、舞を亡くしてから2年が経ったいまでも、彼は舞のことを純粋に愛していたのだろう。
ぼくは心の中で呟いた。
『舞、君との約束の一つは果たしたけど、これで良かったのかい?』
思えば、長澤ユカ、そして舞、満央‥‥‥
彼もまた常に愛を模索し、愛に枯渇し、愛に彷徨していた独りの悲しい男だった。
ぼくは高梨の肩を叩いてベンチを立った。
彼はぼくを見上げて、慌てるように言った。