月のあかり
 
 2、3歩ぼくの前に出て手摺りに身を乗り出し、満央が言った。
 
「あの月は、もうすぐ欠けて見えなくなるの」
 
「ああ‥‥‥」
 
「もう分かるよね」
 
 満央が呟いた。
 
 ぼくは何も言葉を返せなかった。
 
「見えなくなってもそこに月はあるの」
 
 満央は振り返ってぼくを見た。
 悲しみを滲ませたような真剣な眼差しだった。
 
「見えない光で照らしているんだよ」
 
 満央‥‥‥
 
 彼女の名前を呼んだ。満央は小さく頷いた。
 
「もし私が‥‥‥」
 
「ダメだよ、ダメだよ満央」
 
 彼女が何かを言おうとしたのを制して、ギュッと抱き締めた。
 別れの言葉を放たれる予感。いままさにそれを感じたからだ。
 
「ぼくから離れちゃダメだよ。ぼくの前から消えちゃダメだよ」
 
「‥‥ふん」と声にならないハミングを漏らしたあと、満央はこう言った。
 
「ごめんねっ」
 
「どうして謝るんだい?」
 
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