月のあかり
 
「サンドイッチ作ってくるの忘れちゃった」
 
 満央は小さく舌を出して見せた。
 
「バカだなぁ‥‥‥」
 
 安心したぼくは、もう一度彼女を抱き締めた。
 さっきよりも強く。
 
「‥‥‥ふん」
 
 
 
 風が出てきたのか、満央の髪がしなやかになびき、肌寒い空気がぼくらを包み込んでいた。
 
「ねえ、もう一つおしえてあげるね」
 
 ぼくの腕の中で満央はそう言った。
 
 何を?と訊くと、満央は少しだけ唇を尖らせた得意気な顔をした。
 いつもの彼女の笑顔。
 
「どうして月は欠けて見えなくなっちゃうか分かる?」
 
「新月ってこと?」
 
「そう」
 
「えっ‥‥それは‥‥‥」
 
 情けないことに即答出来なかった。
 ひと呼吸だけ思案の時間を置いて、大人の知恵を絞り出した。
 
「太陽の光で見えなくなるからだろ?」
 
 自信のない答え方に、満央はクスリと笑った。
 
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