月のあかり
それはまさに、あの《ためいき色》
ぼくと満央は重力の負荷から解放され、吸い込まれるようにその空へと誘致された。
差し込む一筋の強烈な陽光が、空の上で寄り添うぼくらの身体を貫いてゆく。
そうか、そうだったのか‥‥‥
ためいき色は昇陽を待つ淡い空の色。
これから太陽が輝こうとする予兆の色だったのだ。
「もう分かるよね?」
満央の言わんとしていることが、なんとなく分かる気がした。
月の形が見えなくなる新月。
死んだように消えてしまった月も、《新しい月》という名のもとに、やがてまた日いち日と満ちてくる。
死は永遠の消滅ではなく、脈々と受け継がれてゆく永続の節目でしかない。
果てしなく繰り返される喪失と再生。
ぼくらは、終わることのないその宇宙のサイクルの一端を担っているのだ。
そして、そこに大いなる真理や意志を刻み込めるならば、来光に浮かぶ弥勒のような輝きを放ち、滅びることのない愛に満たされるに違いない。
「ねえ、直樹さん」
満央が言った。
「愛してるよ」
それは、満央が初めて明確に示した、ぼくへの愛情の言葉だった。
「ぼくもだよ」
知ってるよ。と満央は微笑んだ。