月のあかり
「直樹さんに出会えてよかった」
笑顔の瞳には涙が光っていた。
「ぼくも満央に出会えてよかったよ」
満央のおでこにキスをした。
「‥‥ふん」
ためいき色の空に浮かぶ月は、ますます細くなってゆく。
「もう行かなきゃ」
ぼくは、どうして?とは言えなかった。
脱力感や無力感もあったが、もうこれ以上、彼女を引き留めてはいけない気がした。
そう、きっと引き留めてはいけないんだ。
「ありがとう」
満央はそう言って、ぼくの腕から擦り抜けた。
そして綿帽子のように、あの細い月に向かってふわりと飛んでいった。
「満央!」
ぼくは声を枯らして叫んだ。何度も、何度も‥‥‥
「満央――!!」
でも、もうぼくの声は届きそうにもない。