月のあかり
 
 それを見届けたように、ヒメは屋上へと走って行く。
 
 
「ねえ」
 
 
 その声は、屋上から聞こえた。
 
 まるでぼくを呼ぶような声。
 
 耳を疑うような聞き覚えのある口癖。
 
 急いで屋上に駆け登ると、呆然とするほどの荘厳な光景に、息を飲み込み立ち尽くした。
 
 それは、いままでに見たこともないほど鮮やかで、美しい満月だった。
 
 
 きっと、どんな画家でも、どんな写真家でも、どんな彫刻家でさえも、あんなに美しい月を描き、撮り、創造することなど出来ないだろう。
 
 屋上には相変わらず、ベンチがぽつんと置かれていた。
 ヒメはその上に乗り、まるで人間が何かを想うように、じっと月を見上げている。
 
 ぼくはヒメを抱き抱えてベンチに座り、満月を見上げた。
 
「満央、君はこれを見せたかったんだね」
 
 ぼくは、満月に向かって語り掛けた。
 そこに満央がいる気がした。
 
 
 ありがとう。
 
 ぼくを照らしてくれているんだね。
 
 しばらく夜道を彷徨っていたけど、これでもう大丈夫そうだよ。
 
 満央‥‥‥
 
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