月のあかり
 
『遅れてごめんなさい。いま着きました』
 
 それはあかりからの到着を知らせるメールだった。 
 慌てて周囲を見渡し、あかりの姿をさがした。
 すると、すぐ目の前にある交番のレンガ色のタイルの壁に、一人の女の子が背をもたれて携帯電話を握り締め、不安そうに辺りをキョロキョロと見回していた。
 え、あの娘が「あかり」だろうか?
 
 視力のいいはずのぼくが、思わず疑心の眼差しでその女の子を凝視してしまった。
 彼女はわずか数メートル目の前から視線を送るぼくの存在に気が付かず、おもむろに携帯電話を耳にあてて、再度周囲を見回した。
 彼女の携帯には赤いストラップがぶら下がっていた。
 それはぼくの仕事で扱っているパチンコメーカーのノベルティ商品で、普通では手に入らない非売品のものだ。
 そして間違えなく一週間前にぼくがあかりにあげたものだった。
 ワンテンポ置いてからぼくの携帯電話が再び振動した。
 画面に表示されたのは知らない番号だった。
 これはあかりの番号だろうか?
 ぼくはまだあかりの携帯番号を知らなかった。
 ところが彼女は、先日渡したぼくの名刺に書いてあるこの携帯電話を知っているはずだ。
 ぼくは恐る恐る通話ボタンを押して耳にあてながら、一歩二歩と彼女に近づいた。
 
『あ、もしもし、あかりです』
 
 受話器の向こうでそう言いながら、目の前に近づいてくるぼくの姿に気付いた彼女は、目を丸くして驚いている。
 
「‥‥し、嶋さん?」
 
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