月のあかり
「どうしたの?」
「うーん‥‥なんかこっち側ってダメなんです」
ぼくの右側に座っていたあかりが、そそくさとぼくの左側へと移動して座り直した。
どうやら彼女独自の感覚というものがあるらしく、男性の隣に座るときは自分が左側に居ないと落ち着かないらしい。
ぼくも寝る時は仰向けに寝るよりも、どちらかというと左側を向かないと寝付きにくい癖がある。
それと同じような《居心地のいいポジション》がその人なりにあるのだと思う。
さっきまでおとなしくなっていたあかりが、昼寝をして元気を取り戻した子供のように生き生きとした表情をしている。
「ねえ、ねえ、嶋さん。あかり緊張してきちゃったよ」
そうは言っているものの、緊張なんていう洒落て大人びた表現ではなく、おやつの時間が待ちきれずに、わくわくしている子供‥‥。
そう、やっぱり子供のような無邪気な一面に、ぼくのほうも父親や兄貴のような父性本能が、弥が上にも開発されてしまいそうだ。
彼女にとってぼくは
父親? 兄?
それとも『彼氏』になれる存在なのだろうか?
あかりは再び「ねえ?」と声を掛け、ぼくの腕を甘えるように引っ張ったり、革のハーフコートのファーの部分を面白がって毟るように触ってきた。
「あ、ダメだよ。ファーの毛が抜けちゃうよ」
「あはっ、だって触り心地がよくって楽しいんだもん」