月のあかり
すぐに頬を赤らめ、はにかんだ表情を作る今までの印象と違い、今日のあかりは何だか別人のように人懐っこく、しかも大胆に戯れついてくる。
女の子とこんな風に接するなんて、以前に付き合っていた彼女と別れてからしばらく無かったし、こんなに周囲の視線が気になる恥ずかしさなんて久しく忘れていた。
やがてぼくらの順番がきて、店員さんに一番左端のレーンを案内された。
見渡すと広いフロア内には10以上のレーンがある。 さすがに週末だけあって、すべてのレーンがお客さんでいっぱいだった。
点数にこだわり、玉を転がす行為を純粋にスポーツとしてプレーしている人もいれば、単なる遊戯や娯楽ゲームとして楽しんでいる人もいるのだろう。
そういえば、ぼくの仕事はパチンコ玉に関係しているが、大きさの違いはあれ同じ球体を扱った娯楽のようなものだ。
思えば太陽も月も球体ならば、ぼくらが住んでいる地球も球体だ。
そんなミクロにもマクロにも通じる宇宙の真理の形状の中で、一方では内乱や紛争、テロ行為などが日常茶飯事で起き、多くの人命が犠牲になっている。
そしてもう一方では、老若男女問わず、この《玉転がし》に一喜一憂している浮き世の宴姿を鑑みると、この真理の形状に浮かぶ光と影の皮肉さを、つくづくと感じてしまう。
ぼくとあかりが自分の投げるハウスボールを選んでいると、ランダムに訪れるイベントタイムが始まった。
フロア内の照明が落ちるとブラックライトが点灯され、蛍光塗料が塗られたハウスボールが鮮やかに浮かび上がって、幻想的な空間を演出していた。