月のあかり
※
ためいき色に街は染まる。
ぼんやりとかすみが掛かったように、すべてが夢の中の映像としてしかぼくの眼には映らない。
「ねえ?」
彼女は街の中でも人目を気にせずに戯れついてきたり、手を引っ張ったりして甘えてきた。
初めてのデートの時は、ぼくも周囲の視線が気になったりして気恥ずかしかったけど、あの頃はすっかり心地良くなっていた。
「たまにはどっかに連れて行ってよー」
「どこかって、どこ?」
「うーんとねぇー‥‥‥」
そう、あの時あんな場所に彼女を連れてなんか行かなければ‥‥‥
『あかり』
目の前のすべてが、ためいき色に包まれながら、ぼくの耳には「ねえ?」とたずねる彼女の口癖がこだました。
『ねえ?‥‥』