月のあかり
 
「好きなように呼んでいいよ」
 
 ぼくがそう了解を出すと、あかりはニコッと微笑みコクリと頷いた。
 
 この微笑み方も、頷き方も彼女独特の愛らしい仕草と癖であることが今夜はっきりと分かり、何だか無性に嬉しかった。
 そしてその嬉しさが、この場での別れの寂寥感をより一層増幅させた。
 
「ごめんね」
 
 ぼくの口から出た言葉はそんな一言だった。
 ボウリングなんかじゃない所へ、凄く美味しい食事の所へ、こんな尻切れトンボのようなデートではなく、彼女にもっと楽しい思いをさせれる事が出来たんじゃないかって‥‥そんな後悔の思いが、沸々と胸の奥から溢れ出たのだ。
 
「ううん」
 
 あかりは、まるでぼくの心を見透かし、自責の念にかられるぼくを優しく否定するように、かぶりを小さく左右に振った。
 
「楽しかったよ」
 
「本当に?」
 
「だって直樹さんと一緒だったから」
 
「‥‥そう?」
 
「うん」
 
 たとえ嘘や社交辞令の言葉であったとしても、そのあかりの一言でぼくは救われた気がした。
 
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