月のあかり
「また会えるよね?」
ぼくが訊くと、あかりは一瞬遠くを見るような目付きで視線を逸らし、「ふん」と声にならない擦れたハミングで頷いた。
そんな曖昧さの見え隠れする彼女の返答に、いま救われたはずのぼくの胸中には、一転して不安の大洪水が押し寄せる。
当然の事ながら、ぼくの小さな堤防はあっという間に決壊した。
「じゃあ、いつ会える?」
焦りに狂するぼくは、その洪水からの溺死を免れようと必死で抗い悶えた。
「‥‥うん、まだ分からない」
あかりは俯いて答えたまま、ぼくと目を合わせなかった。
抵抗し藻掻くほど、蜘蛛の巣に捕われた蝶のように不安の糸に纏いつかれる。
そして心拍数が異常に急上昇したぼくは、まさにこの場で絶命寸前になった。
あかりは、もうぼくと会ってはくれないのだろうか?
沈黙という名の舟に乗り、寂寞の海原で難破しかかっていたぼくに気付いたあかりは、さっきまでの子供っぽさと違い、まるで母性本能に溢れた母猫が子猫の首ねっこを掴むように、そっと助け舟を出してくれた。
「ああっ、さっき言ったじゃん。あかりはこういう性格なんだって」
逸らしていた視線を再び合わせてくれた彼女の瞳は、仄かに潤んでいるようにも見えた。
「あ、ごめん。そうだったよね」