月のあかり
 
「あっ」
 
 あかりは小さく声をあげ、擬態をする小鳥のように身体を硬直させた。
 
 居ても立っても居られなくなったぼくは、駅の改札口の前のコンコースで人目も憚らず、衝動的で一方的な抱擁を浴びせていたのだ。
 やがてぼくの腕の中で虚を衝かれて身構えていたあかりが、徐々に身体の力を抜き、しな垂れ掛かるように身を委ねてきた。
 
 ぼくは、まだほんの微かに震えているような、彼女の身体から伝わるバイブレーションを静めようと、もう少しだけ回した両腕に力を込めた。
 
 そして俯く黒髪にキスをした。
 
「‥‥‥」
 
 あかりは子猫が鳴くような長い声のハミングを返した。
 
 ぼくらはその場でしばらく観葉植物同然に佇み、見て見ぬ振りをする周囲の好奇な視線をやり過ごした後、細胞が分裂するようにそっと二つに離れた。
 
「じゃあ行くね」
 
 あかりがそう発した。
 
「うん、じゃあまた」
 
「‥‥ふん」
 
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