月のあかり
 
 ぼくの問い掛けに、彼女はあかりがよく見せる「あははっ」という無邪気な笑顔ではなく、「ふふっ」と大人びた微笑を浮かべ、スーッと煙のように宙に舞った。
 
 その瞬間、ぼくは無重力な宇宙空間へと放り出されたように身体の自由を失った。
 そして再びためいき色の霧に包まれると、凍てつくような寒さと、熱線に焼かれるような高熱の中で呼吸困難になり、微睡みの悪夢から目を覚ました。
 
 
 またか‥‥‥。
 
 
 このところ、ずっとこんな夢ばかり見ている。
 
 あかりとデートしてから今日で3週間近くが経とうとしていた。
 あの日以来、彼女のほうからの連絡はなく、ぼくからのメール発信にも梨のつぶてだった。
 
 大抵の場合、こうして最初のデートですべてを判断され、それっきり二人の関係は自然消滅してしまう‥‥‥
 それが俗に言う実らない恋の物語であり、典型的な終幕のパターンだというのが世間の定説なのだろう。
 
 
 そんな寝不足の虚ろな意識のまま、営業車で首都高を疾駆するぼくのスーツの胸ポケットで、携帯電話が鳴り響いた。
 
 ぼくは平和島のパーキングに車を止め、すぐに鳴り止んでしまった着信履歴をチェックした。
 
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