月のあかり
着信履歴に記録されていたのは、営業を掛けている取引先からの番号だった。
ぼくは早速先方の担当者に折り返し連絡をして、いまから伺うというアポイントを取り、再び首都高を疾駆して、新宿にある取引先へと直行した。
アポイントは取れたものの、もともと見込みの薄いこの顧客は、こちらが熱心に売り込めば売り込むほど肩透かしや、思わせ振りな態度で結局は糠喜びさせるだけの冷やかしが恒例だった。
ぼくもいつものように御座なりで当たり障りのない営業をし、何の実りも充実感もない仕事をやり過ごした。
以前あかりが「私、こういう仕事向いてないのかな‥‥‥」と言ったネガティブな思考が、いままさに自分自身への問い掛けとして痛感させられる。
その後に大人振り、偉そうにアドバイスしていた自分が、いまはただ恥ずかしく思えた。
取引先での営業を終えると、数年前に都内に住んでいた土地勘を生かして、首都高ではなく一般道から、のんびりと帰社するのをささやかな楽しみとしていた。
ぼくは遅い昼食を取ろうと、とある高層ビルの最下層にある外食街へと足を伸ばした。
財布と相談しながら結局ファーストフードに入ると、あまり食べ慣れないサンドイッチを注文した。
そういえば‥‥‥。
お店に入ってから気付いたのだが、ここはあかりが昼間のバイトをしていると言っていたファーストフードと同じ系列のお店だった。
まさかと思いつつも、思わずカウンターの奥をさり気なく覗いて、バイトの女の子たちの顔を注意深く観察してしまった。
そんな浅ましい行動に冷静な自分の理性が数秒遅れて追い付くと、とてつもなく強大な羞恥心がぼくの全身に隕石のように降り注いだ。