月のあかり
もし万が一あかりがここに居て、偶然にもバッタリ出会ってしまったら‥‥‥
それが本当にこのような偶然だったとしても、あかりは単なる偶然と受け止めた解釈をしてくれるだろうか?
仮にぼくが逆の立場だと置き換えてみる。
3週間も音信不通に放置し、自然消滅を目論んでいた(そうぼくが思い込んでるだけかも知れないが)その相手が、何の予告もなく突然自分の職場に現れたら‥‥‥きっと未練の塊を携えて付き纏う、狂気のストーカーだと勘違いしてしまうとのではないだろうか?
そんな自己嫌悪に陥ると、ぼくは注文したサンドイッチも受け取らずに、その場を逃げるように立ち去った。
そういえばこんな出来事を思い出した。
あれはもう10年も前の事だろうか。
当時付き合っていた彼女に一方的にフラられ、失意と傷心のどん底に転落した後で、ふと気分転換にドライブをした時の事だ。
普段滅多に通らない道をたまたま走っていたぼくの車の前に、肩を寄せ合い、手を繋いで歩くカップルを目撃した。
それはまさしく、その別れた彼女と新しい男だった。
さらに皮肉だったのは、そのカップルを追い抜く前に信号待ちで停車せざるを得ず、カップルがぼくの車の真横の歩道を歩いているタイミングだったということだ。
別れた彼女が、ぼくの乗っている車の車種やナンバーを、もともと覚えていたことは言うまでもない。
運転席のぼくは元彼女に軽蔑と生理的拒絶のような冷たい視線で睨まれ、その後しばらくの間、謂われのないストーカー扱いをされる羽目になった。