月のあかり
お店の名前は確か‥‥
『HALF MOON』
だっただろうか?
2度目の来店の今夜も、敢えて細かい確認はしなかった。
店の名前に関心があった訳ではなかったし、今夜この場所に来たのは、単に飲酒を嗜みに来たという理由ではなかった。
勿論その目的は『あかり』に会う為だ。
ようやく他のお客のテーブルを離れ、彼女は指名を掛けたぼくのテーブルへと来てくれた。
彼女はまるで荒らぶる猛獣たちのサファリワールドから、命からがら逃避してきた幼気な小動物のようにビクついていて、ぼくの隣に座るとホッとしたように安堵の表情を浮かべた。
「よかった、また嶋さんが来てくれて」
そう言うと安堵の表情から、気恥ずかしさを残した屈託のない笑顔に変えて、愛くるしい瞳でぼくを見つめてくる。
「何かドジでもしたの?」
前のお客に水割りを濃く作りすぎてしまったであろうことは、一部始終聞き耳を立てていたぼくには容易に推測はついていたけど、何も知らない振りをして彼女に尋ねた。
すると彼女は「違うんです」と力んで言って、今度はお多福のように膨れっ面になった。
「お尻触られたんです!!」