月のあかり
 
 ブーッとさらに頬を膨らませてぼくを見たあと「あははっ」と照れ笑いをして顔を赤らめた。
 彼女は真夏の青空に立ち昇る入道雲のように、刻々とその表情を千変万化させる。
 
「嶋さんがまた来てくれるなんて思わなかったんです」
 
「え、どうして?」
 
「だって私が3日前にバイトを始めて、最初に付いたお客さんだったから」
 
「そうなの? ぼくが初めてのお客だったとは知らなかったよ」
 
 不慣れな仕事ぶりから見て、勤めて間もないであろうことは容易く読み取れた。でもぼくが初めてのお客だったなんて、彼女は打ち明けてくれなかった。
 きっと初めてで不慣れなことを恥ずかしく思い、悟られたくなかったのだろう。
 それを3日後の今日になってすんなりと明かしてくれるのは、少しは仕事に慣れたことと、ぼくに対して特別に心を開いてくれたのではないかと、勝手に都合よく解釈してしまう。
 何せ3日前の彼女は緊張しっ放しで、自分のことをあまり話してくれなかった。
 唯一話してくれたのは、ある劇団に所属していてお芝居の勉強をする傍ら、昼間はファーストフードでバイトをし、夜の空いた時間にこの仕事を始めたという経緯を話してくれたことだった。
 
 あかりははにかんだ表情を見せると、ぎこちない手つきで水割りを作ってくれる。
 白魚のような細くて形のいい指と、すべすべした手の甲の肌はいかにも女の子らしく、まだ19歳という純然たる若さをありありと象徴させていた。
 
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