月のあかり
 
 あかりはじっとぼくの顔を上目遣いに見入っていて、ぼくの唇から漏れる何らかの回答を待ち侘びているようだった。
 
『そんなことないよ』
 
 ここはそう答えて、彼女を励ます無難なアドバイスを添えて答えるべきだろうか。
 例えば、
『仕事なんて慣れるまで何をやっても大変だから、もうちょっと頑張ってみなよ』
 なんて当たり障りのない大人振った説法で諭すべきなのだろうか。
 それとも、
 
『向いてないと思う』
 
 素直に個人的意見も加味することで彼女に同調し、良き理解者に付くべきだろうか。
 瞬間的にぼくの頭の中では超高速のあみだクジが開始された。そして選んだ答えは‥‥
 
『ぼくも向いてないと思うよ』
 
 少し目線をそらし気味だったけど、冷静を装って最もらしい言い方でぼくは答えた。
 これはちょっとしたギャンブルや試験問題のような気分だった。
 もしこの二者択一で、彼女の求めている答えを見事に的中出来なかったら、きっと彼女に嫌われてしまうんじゃないかって、何故かそんな強迫観念の境地に自分を追い込んでいた。
 
 しかしその解答はあかりのはにかんだ笑顔によって、マークシートの採点のようにすぐに合否が発表された。
 
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