月のあかり
 
「直樹さんが見たのも正夢だったんだね」
 
 その一言で、ぼくは正気に戻って驚愕した。
 そう、ぼくは満央にお姉さんがいたことも、名前が『マイ』だなんてことも知らなかった。
 それどころか『あかり』が満央という本名だったことさえ今日知ったばかりなのだから。
 
「満央の場合は予知夢かもね」
 
「予知夢?」
 
 満央は目を丸くしている。ぼくは頷いて見せた。
 そんなぼくも予知夢と正夢の定義なんてはっきり分からない。
 ただ彼女の場合は、今日こういう成り行きになることが、意識の何処かで分かっていて行動してたんじゃないかって、そう思ったからだ。
 
「平安時代からも夢は物事の前兆と信じられていて、夢合わせとか夢違えなんて言われる習俗があったんだって」
 
 ぼくは取って付けたように、図書館の本で読んだ受け売り的な知識を聞かせたけれど、満央はひどく感心して、コクリコクリと何度も頷いた。
 
「じゃあ、直樹さんのも予知夢?」
 
 どうだろう‥‥ ぼくは答えあぐねた。
 
 なぜ知りもしなかった満央のお姉さんの『マイ』という名前が夢に出て来たのだろう。
 
 単なる偶然だろうか?
 
 この不可思議とも思える一致に、ぼくはこんな言葉しか思い付かなかった。
 
 
「‥‥夢霊感」
 
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