月のあかり
「じゃあ、舞姫の『姫』は?」
ぼくは単純に質問した。
満央は「あははっ」と笑ってこう言った。
「本当は私が生まれる時に『姫』って名付ける予定だったんだって」
「そうなんだ。でも、どうして『姫』はボツになったのかな?」
「私が生まれる時には、両親とも『舞姫』のことはすっかり忘れてたみたい」
ひどいでしょ? と言って今度は少し頬を膨らませた。
「もしかしたら『お姫様』なんて呼ばれてたのかもね」
そう言うと、満央は嬉しそうに小さく頷いた。
「お姉ちゃんとは凄く仲が良かったんだ」
「そうなんだ」
「うん、2歳違いだったけど、よく双子に間違えられたりしてたの」
「どうしてお姉ちゃんは亡くなったの? 何の病気で?」
会話の流れとはいえ、これはぼく自身、しまった!と思うタブーな質問だった。
しかし、夢の中にまで出て来た満央の姉と思しき人物について、どうしても知りたくて仕方ない衝動に駆られたのだ。
「‥‥‥」
満央は急に表情を強ばらせ、黙って俯いてしまった。
やっぱりぼくは、デリカシーのない質問をしたことに、途方もなく後悔した。