月のあかり
 
「そうですよね」
 
 嬉しそうにあかりは答えた。
 想定以上の彼女の好反応に意表をつかれたぼくは、思わず「う、うん」と訝しげな相槌を打ってしまった。
 
「嶋さんが初めてです。そう言ってくれたの」
 
「そうなの?」
 
「いままで何人かの友達や知り合いに、それとなく訊いてみたんですけど、みんな『がんばれ』って言うだけの無責任な励ましばっかりだったんです」
 
 ぼくがふむふむと頷きながら黙って聞いていると、あかりは舌っ足らずとはいかないまでも、ほんの少しだけ他の人よりスローなテンポで話を続けた。
 
「励ましてくれるのは嬉しいし、何事も頑張らなくちゃってのも分かるんです。自分では充分頑張ってるつもりなんですけど、でも好きでもない人とお酒を飲んで、お話し相手するのってやっぱり辛くて、自分には全然合ってない気がして‥‥‥」
 
 そう言ってあかりは手持ち無沙汰のように、自分のグラスのふちを指先で、円を描くようになぞり続けている。
 そしてもう一度ぼくの反応をうかがうように、上目遣いで一瞬チラリとこちらを見た。
 その恐縮した仕草から、明らかに彼女が胸の内の思いを曝け出し、正直に話しをしてくれているのが感じ取れた。
 でも何故そんなことをいきなり打ち明けてくれたのだろう。
 ぼくは彼女に一目惚れに近いかたちで惹かれたけど、彼女がどんな思いでぼくに打ち明けてくれたのかは疑問だった。
 
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