月のあかり
「これって‥‥」
ぼくに促されたように満央も部屋の中を見回しながら、寝ていた上半身をまた起こした。
「夢は夢でも、あの夢の中みたいだ」
「ためいき色の夢」
二人でハモるように言うと、思わず顔を見合わせた。
その情景は、ぼくらを乗せたベッドごと、薄い水色の異空間を浮遊しているような、超常的な錯覚を誘発させた。
「でも、いつもと違うよね?」
満央が言った。
「違う」とぼくも呟いた。
そうなのだ。
いつもこの夢を見る時は、何故かしら切なくなったり、胸苦しくなったりして、とてつもなくブルーな気分に陥る。
そしてピッケルやアイゼンも身に付けない無装備のクライマーとなって、ネガティブな思考のクレバスへと否応無しに転落してゆく。
でも今は、愛する満央と二人でベッドの上に寄り添い、紛れもないこの現実の世界で抱き合い唇を重ねているのだ。
これは断じて幻想が作り出したトリッキーな造形物や、夢の世界の住人が書き下ろした寂寞な叙情詩でもない。
「これが本当の正夢なのかもね」
満央はそう言って、胸元が大きく開いていたブラウスのボタンをすべて外して脱ぎ捨てると、仰向けで横になったぼくの上に、覆い被さるように跨がった。