月のあかり
そうやって一通りの前戯が完了すると、ぼくらは愛欲の主行為へと移行した。
それはローマ法王が行う洗礼儀式のように厳粛な空気に始まり、やがて獣同士の淫らな息遣いへと発展した。
「直樹さん、待って」
行為の途中で満央はストップを掛けた。
「どうしたの?」
「ちょっと‥‥胸が苦しいの」
満央は呼吸が乱れた様子で、息苦しそうに胸を押さえていた。
「大丈夫かい?」
「うん、こんなエッチなことするの久しぶりだったから、興奮し過ぎちゃったみたい」
そう言って満央は、苦しそうな表情を打ち消すように、笑みを浮かべて見せた。
「少し休もう」
ぼくがそう言うと、満央は虚ろな目付きでコクリと頷いたが、すぐに「大丈夫だよ」と言った。
「無理しなくてもいいよ」
「うん、ちょっと休めば大丈夫だから」
しばらくして満央の息遣いは何でもなかったように整ったけど、ぼくは出来るだけ彼女に負担を掛けないように、途中で何度も小休憩を挟みながら、律動をスローなテンポにリズムチェンジした。
淡いブルーに染まる室内の壁に映し出された二人のシルエットは、壊れたシーソーのようにぎくしゃくと揺れ、その度に満央は子猫のような甲高い声を上げていた。