月のあかり
しばらく街道を走ると、駐車場が広くて車の止め易いパチンコ店が左手に見えた。
幸いにもその店はウチの会社とは取引のないチェーン店で、ぼくの面が割れている心配もなさそうだった。
出来るだけ店の入り口に近い所に車を止めて下りると、満央は鎖が切れて解き放たれた子犬のように、パタパタと小走りで店の入り口へと向かった。
「早く、早くぅ」
そう言ってぼくを手招きする。
「そんなに慌てなくてもお店は逃げないよ」
コートを羽織り、車のドアを閉めながら言ったぼくの声は、満央には聞こえなかったようだ。
入り口の自動ドアが開くと、そそくさと先に店内へ入って行く彼女。
その後ろ姿を見た時、なぜかぼくの目には大切な何かが、栓を抜いた排水口へと無造作に吸い込まれてしまうような焦りを直感した。
急いで彼女の後を追い、ぼくも店内へと駆け入った。
店内を見回すとかなりの優良店らしく、通路は大勢のお客でごった返していて、ほぼ満席状態だった。
満央はエントランスの少し奥で、呆気に取られて佇んでいる。
「すごい人の数だね」
そう満央が言ったであろうことは、口の動きで分かったけど、パチンコの機械音や電子音、それに大音量で流れるBGMのおかげで、普通の会話の声量ではよく聞こえなかった。