月のあかり
「もう行こうよ」
店内の通路を歩き回り、齧り付くように遊技をしている人達の背中を漠然と眺めて見切った後、ぼくはこの場所からの逃避を満央に促した。
「うん、もっちょっと」
満央はそう答えると、ぼくの2、3歩後ろを名残惜しそうに歩いていた。
「満央ちゃん」
その声は突然響いた。
店内の騒音の中でも彼女を呼ぶ男の声が、ぼくの後ろからはっきり聞こえた。
よく通る甲高い男の声のだった。
ぼくは驚いて振り向いた。
スロットをしていたその男が席を立ち上がり、満央に近付いた。
満央も不意に声を掛けられ、びっくりした表情をしていた。
しかしすぐにそれが誰だか分かったようで、笑顔でその男に声を返していた。
口の動きで「久しぶり」と言っているようだった。
店内の騒音で、3歩離れているぼくには二人の会話は聞こえなかった。
ぼくは何も気付いていない振りをして前を向き、通路の先の少し開けたフロアに出て、改めて振り返った。
満央とその男はまだ立ち話をしていた。
やがて満央が何かを言いながらぼくのほうを指差した。
男は一瞬怪訝そうな表情をしたが、すぐに愛想笑いのような顔を繕って見せ、ぼくに向かって会釈をした。
取り敢えずぼくも苦笑いで応えた。
すると満央がこちらにパタパタと走り寄って来た。
「ねえ、直樹さん」