広い背中

逃げる女

それからの私は、とにかく分かり易過ぎるくらいに誠を避けた。

あんな惨めな醜態をさらして、忘れられるわけないじゃないか。

誠ごときにフラれただなんて思いたくない。しかも告白もしていないのに!

自分の痛さにいたたまれなくて、唐突に叫びたくなる。

こんな状態で誠に会ったら、絶対普通じゃいられない。

それを見られるのが悔しいから、とにかく誠に会わないようにした。


今までほとんどの時間を一緒にいた誠を避けるのは容易ではなかった。

まず、学校が一緒だし、講義もほとんど一緒だし、家も近いし、バイト先だって近いし。

学校では講義のギリギリに教室に行って、すでに座っている誠からできるだけ離れた席に座り、講義の終わりのチャイムが鳴り始めたと同時に席を立つ。

バイトへ行く道や家へ帰る道がかぶらないように、時間帯も道もいつもとは変えて歩いた。

そんな生活を5日して、楽勝じゃない? なんて気を抜いた土曜日の夕方。

バイトもないし、約束もないし、久しぶりに映画でも見ようかなーなんて思い訪れたレンタルビデオ店で。

まさかの遭遇をした。

「いた」

その聞きなれた声が背後から聞こえて、私は文字通り飛び上がった。

「な、な、な、なんで・・・」

「どもりすぎ。んで、お前の考えてることなんて、全部お見通しなんだよ」

べ、と舌を出して笑う誠の目の奥に、静かな怒りが煮えたぎっているのを見て、私は恐ろしくなった。

誠は、本気で怒っている―――
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