TABOO 短編集
本当はずっと、こうしたかったんだ。
ぎこちなく合わせていた唇を離すと、
彼は照れたように目を逸らし、ぽつりと言った。
わたしも、と答えると、嬉しそうに微笑んで私の髪に指を差しこむ。
中庭から見上げる校舎は古びて、ところどころ朽ちていた。
ガラスのない窓枠が寂しげに並び、かたわらで深く色づいた楷(かい)の木が私たちを優しく見下ろしている。
彼はあどけない少年の顔で、好きだ、と囁き、もう一度私にキスをした。
もっと早く言えばよかった。
噛みしめるような呟きが、私の胸を引っかく。