TABOO 短編集
工事用バリケードの向こうで、敦が手を振っていた。
駆け寄ると、手を伸ばして私が乗り越えるのを手伝ってくれる。
「用事って、何だったんだ?」
フェンスで覆われた学び舎を振り仰ぎ、敦が呟く。
「ちょっと、心残りがあって」
「へえ、済んだのか?」
「うん……消えちゃった」
「つか、この学校ってもしかしてさ」
隣町出身の彼は、校門脇に書かれた母校名を見て首を捻る。
「昔、卒業式の日に、事故があったトコ? 三階でふざけてた奴らが窓ガラスにぶつかって、割れたガラスが降り注いで、運悪く下にいた卒業生が死んだって」
「……どうだったかな」
憂いを抱えてそびえる灰色の校舎は、明日、取り壊されることになっている。
END