TABOO 短編集
入試以来一ヶ月ぶりに訪れた東京は、梅の花が咲いていて想像以上に暖かい。
陽だまりの庭を眺めていると、おばさんが忙しそうに台所から出てきた。テーブルに茶菓子を用意し、ぼうっとしている俺を申し訳なさそうに見上げる。
「秋君ごめんね、予定狂っちゃって。美弥ったら、やることがいっつも急で」
「いえ」
美弥はいつだって奔放で、周りを振り回して楽しんでいる、悪魔のような女なのだ。
玄関のチャイムが鳴って「ただいまー」と高い声が響いた。
「あら大変」
おばさんがエプロンを外し、身なりを整えて出迎えに行く。
「おかえり美弥。まあ、どうもはじめまして、美弥の母です。さあどうぞ、お上がりになって」
声とともに足音が聞こえて五年ぶりの美弥が現れる。
俺を見た瞬間、美弥はあからさまに顔を引き攣らせた。