TABOO 短編集
代償
木曜の夜は用事を入れないと決めていた。たとえば嫌なことがあって無性にお酒を飲みたくても、私はテレビの前で缶ビールを啜る。
「抜かりなく待機してんなぁ」
シャワーから出てきたタクが苦笑しながら隣に座った。
「メイって昔はアイドルとか嫌いじゃなかった?」
付き合いの長いタクは、私のことをよく分かっている。
「だってテレビの人より近所のお兄ちゃんの方がずっとカッコよかったから」
アイドルが光を与える存在だというのなら、私にとってそれは瞬ちゃんに他ならなかった。
タクはビールを一口飲むと急に抱きついてきた。耳を甘噛みされ、無骨な指にシャツの中をまさぐられる。
「もう、後にして」
押しのけると、ちょうどテレビに一人の男性タレントが映った。
「はいはい、メイはこいつに夢中だもんな」
木曜の夜、23時から始まる番組のMCは、甘いマスクで女性から人気が高い、私が唯一好きな芸能人だ。その顔に見とれていると、私の電話がメールを受信した。