アウトサイダー
たった数時間で決めたことだった。
だけど、もう他に選択肢なんてなかった。
彼は「堕ろせ」とは絶対に言わないだろう。
私も授かった小さな命を殺してしまうなんてこと、できない。
だけと、それじゃあ、彼が……。
幸い、手元にはキャッシュカードやクレジットカードがある。
しばらくはコツコツためた貯金でなんとかなる。
新しくしたばかりの携帯電話の電源を入れて、最後に事務所の番号にかける。
もう真夜中で留守番電話になっていたそれに、私は大きく息を吸い込んで口を開いた。
「池森です。本日付で辞めさせてください。
本当に申し訳ありません。お世話に、なりました」
もうそれ以上はなにも言えなかった。
大好きだった仕事。そして、あの事務所。
いつも私のために力を貸してくれた永沢さん。
私はそれを……すべて捨てる。