優しい旋律
灯り
その日から、彼女の目に映る先生は大きく変わった。
苦痛でしかなかった練習が、気がつけば日々の楽しみになっていた。
あんなに嫌だった休日練習も、何時の間にか1番に部室に来て練習するようになった。
練習中に先生から放たれる冷たい言葉の中にも、それ以外の何かを感じるようになった。
鋭さの中に隠れる、本当の優しさ。
無表情の仮面の下に、彼女はいつの間にか暖かな微笑を見ていた。
そして、彼女は放課後練習のとき、いつもあの音を思い出した。
優しく響く、あの時聞いた、旋律を。
ある日、彼女はいつか自分が泣いたときに連れ出してくれた先輩に聞いたことがある。
何故、吹奏楽部を続けているのかと。
先輩は言った。
「先生の音楽に対する真摯さに、自分も付いて行きたいと思ったから」
その時、彼女は全てが分かった様な気がした。
どうしてあんなにも先生は厳しいのか。
どうしてあんなに冷たいのか。
ここに残った者は、先生の真の姿に気が付いた人たちなのかもしれない。
全ては音楽に対する情熱から。
同時に自分の心の中に、今までなかった明かりが灯っていたことに気がつく。
それは先生の姿を見れば、
声を聞けば、
ふわり、と自然に輝きだし、心の隅々を暖かく照らす。
日に日にその明かりは強くなり、彼女の胸を焦がし出すようになっていった。
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