光の花は風に吹かれて
「っ、セスト様!」

廊下に出ると、階段の方から声が聴こえた。ローズが急いで下りてくるのが見えて、セストは踵を返した。

「――っ」

だが、くらりとして壁に手をつく。

寝不足だ。さすがに何日も眠れないのは堪えるらしい。

パタパタと足音が近づいてくるのが聴こえる。セストはなんとか足を動かして研究室に戻ろうとした。しかし、その扉に手を掛けようとしたとき、グッとその手を掴まれる。

「はぁっ、まっ……て、ください」

肩で呼吸をしながら、ローズはセストを見上げた。

久しぶりに見たローズの琥珀色の瞳、長いまつげ、桃色に染まった頬に2度触れたことのある赤い小さな唇。霞む視界でそれらはなぜかハッキリと見えた。

(記憶……)

記憶がセストのヴィジョンを補正している。ローズの存在はこの約半年でしっかりとセストに刻まれたのだ、と……そんな分析をどこか遠い意識の中でして。

「やっと、会えました」

ニコッと笑ったローズの笑顔も。目の前ではぼんやりとしているのに、頭の中ではクリアに再生された。セストが好きなローズの表情――そう思ったら、膝から力が抜けた。

「セスト様!?」

ローズに体重を預けるように倒れこんだセストと、セストの重さを受け止めきれずに尻餅をつくローズ。

抱きとめられて、ふわりと鼻をくすぐった上品なバラの香り。

「セスト様っ!」

ローズの慌てた声を最後にセストはまぶたを閉じた。
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