光の花は風に吹かれて
目を開いたまま、ローズの整った顔がゼロの距離にあるのを呆然と見つめて。

「夢の中に、いるのは……っ、セスト様の、方だわ」

ポツリ、と。

ローズの涙がセストの頬に落ちた。

その1粒を合図にして、セストの顔の両側に手をついてセストを見下ろすローズの瞳からはどんどん雫が零れてセストの顔を濡らしていく。

「現実の私を見ようとしてくれないのはセスト様の方です」

震える小さな唇から微かに言葉が紡がれる。

「私から逃げて、現実から目を逸らそうとしているのはセスト様なのですよ?眠れないくらい、私のことを考えてくださっているのに、どうして……っ、どうして受け止めて下さらないのですか?」

ローズはセストの左手を取って、自分の頬に当てた。

「お仕事が手につかないくらいに、私のことで悩んでくださっていると……それは、私の自惚れですか?」

ローズの涙を、笑顔を、思い出して眠れない。

簡単な書類に目を通すことさえできない。

ローズの気持ちはもう消えたのだと、確認するのが怖くて避けて……それなのに、会えたら嬉しかった。

彼女が笑いかけてくれたら、気が緩んで倒れて――セストの気持ちはとっくに咲いてしまっていた。
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