光の花は風に吹かれて
「あ、セスト。もう食事終わったの?もう少しゆっくりしてくればいいのに」

少し歩いたところでこれから食事に向かうらしいイヴァンに会った。

「仕事が溜まっているからね」
「珍しいね?セストが仕事を溜めるの」

クスッと笑ったイヴァンの目の奥は可笑しそうに笑っている。

「ローズ様?」
「言ったじゃないか、仕事に差し障るって」
「でもそれって、セストも気にしているからだろう?何とも思っていなければ、支障はでないよ」

違う……それは、セストにほんの少し罪悪感があるからで。別にローズをどう思っているとか、そういうことではないのだ。

「それに、あんな一途にセストを追いかけてくれているのにそんな冷たい態度、良くないよ」
「中途半端に期待させる方が良くないよ。私はローズ様のことを好きでも何でもないし、どちらかといえば迷惑だ」

そう言って顔を上げると、イヴァンの顔が引き攣っていることに気づく。その視線を辿って振り返るとローズが唇を噛み締めて、瞳に涙を溜めて立ち尽くしていた。

「あ、あの……っ、ごめんなさい。聞くつもりはなくて、その…………シェフがおいしいケーキ屋さんを教えてくれて、さっき、デザートが、好きって……言って、いたから、一緒にと……思って…………っ」

だんだんと小さく、震えていく声はそこで途切れてローズは涙を拭った。

「ロー……」
「でもっ!お忙しいですよね。ごめんなさい。忘れて下さい」

ペコリとお辞儀をしたローズは踵を返し、廊下を駆けていってしまった。

「追いかけた方が、いいんじゃないの?」

呆然とそれを見送ってしまったセストにイヴァンが声を掛ける。セストはため息をついて、進む方向を変えた。
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