光の花は風に吹かれて
「セスト様!」

身支度を済ませて部屋を出ると、扉の向かい側の壁に背を預けていたローズがパッと顔を上げた。

待ち伏せはアプローチの一環だと思っているらしい。

しかし、朝早くから仕事を始めるセストに合わせて起きて、こう毎日欠かさず部屋の前で待っているローズを見ていると彼女の情熱を感じずにはいられない。

たとえそれが……セストに植えつけられたものだとしても。

「おはようございます。ローズ様」
「セスト様、今日も素敵です」

ニッコリと笑ってセストの後ろをついて歩くローズ。

廊下をすれ違う執事や侍女たちに挨拶をしながら一生懸命セストに話しかけてくる。

「今日はお天気がよくないですね。ヴィエント王国の冬は風が冷たくて寒いと聞いていましたけれど、こんなに強い風が吹くのは私が来てから初めてです」

ルミエール王国はヴィエント王国の南に位置していて、わずかではあるが冬も暖かい。加えて風があまりないことを考えると体感温度はやはり違うのだろう。

逆に夏はヴィエントの方が過ごしやすい。

ローズの止まらないお喋りを適当にやり過ごしながら、セストは食堂への扉を開けてローズを入れてから自分も中へと進んだ。
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