光の花は風に吹かれて
「……ヴィエント王国は、夢のような国だと思っていました」

ローズがポツリと言う。

その声は掠れていて、俯いた彼女はとても小さく見えた。いつも笑顔でセストにくっついて回る姿が嘘のよう。

「噂に聞いて、憧れていたのです」

フッと、ローズが震えた息を吐く。それから立ち上がって、星の浮かぶ空を見上げた。

「実際にレオ様とリア様が愛し合っていて、ルカ様の誕生を待ちわびているのを自分の目で見て……本当にこんな世界が、セスト様にお会いしたような夢の中の世界が、あるのだと」

夢の世界――セストが与えた残酷な幻想。

「ローズ様、それは――っ」

思わず立ち上がって、セストは唇を噛んだ。

一体何を、どう説明したらいいのかもうまく考えられない。それに、今のローズに告げられるような内容でもない。

「いいのです。子供みたいでしょう?エミリーにも、さっき怒られました」

あぁ、このままタイミングを逃し続けたら……また言い出しにくくなって、ローズも今よりずっと傷つくことになる。そう、わかっているのに。

(なぜ……)

言えばいい。

セストはローズを利用しただけだと。

貴女は幻を追いかけた、無知な王女なのだと。

今すぐ記憶修正をして、傷つけて、失望させて、ルミエールへと追い返せば……それだけなのに。
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