光の花は風に吹かれて
「それでも、セスト様に会えたから……もう少しだけ、現実を信じてみたくなったのです」

そう言って、ローズはセストを振り返る。

潤んだ琥珀色の瞳に見つめられ、セストはやはり言葉が出てこなくなってしまった。喉に詰まっているのは……飲み込めない、自分の揺れすぎる感情。

こんなに弱ったローズに真実を告げられるほど、悪になりきれない自分はまだまだ甘いのだと、変に冷静な思考を抱えて。

「セスト様は――」

ローズはゆっくりとセストに近づいて、セストの胸に頬を寄せた。

ギュッと、縋るようなローズの仕草に……セストは彼女の身体を引き離すのも忘れて立ち尽くす。

――信じてみたくなった

違う。

最初から、ローズの信じたい世界など存在しなくて。

傷ついて、自身の境遇と現実に失望していたローズに与えてしまった甘美な偽り。弱っていたローズがその希望に縋るのは、自然なことだったのに。

その世界を壊すことがセストの責任なのに。
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